卒業する皆さんへ


今日は講師をしている昭和音楽大学の卒業式です。私が受け持っていたクラスからも、何人かの学生が卒業していきます。

私は「式」のつくものが、慶弔の別に関わらず苦手です。
もちろん、それなりに外見上は大人でありますから、そのような我儘を言っていられない時もあります。しかし、出来れば苦手なものとは関わらずに生きていこう、というのを信条としておりますので、今年の卒業式にも出席しません。せっかくの慶事に顔も出さないというのも申し訳なく思うのですが、そのようなことなので、若者諸君にはご理解をお願いしておきます。いや、失敬失敬。

 

学校では、作曲とそれにまつわることを中心にお話ししました。
学校から卒業したからといって、皆さんが音楽と関わって生きていく、ということに変わりないでしょう。あなたの人生の中で、若くて輝いた時代のそう少なくはない時間を、音楽のために、音楽を志す仲間と共に、費やしたということが、これからのあなたの人生を、より豊かにするものであるようにと心から願っています。

そして、できることなら、作曲を続けて下さい。音楽や作曲をするということを続けることで、生きる上で大切な、たくさんのことに気づくことができますから。そして何より、作ることは楽しいことですから。
心配しなくとも、若い時に考えているよりは、あなたに与えられた音楽を作る時間というのはたくさんあるものです。あわてずに、自分のペースで続けて下さい。

そうして、作り続けるかどうか、というのがあなたが作曲家であるか否かを分かつのです。
職業的な作曲家になるかどうかは、多分あまり重要なことではありません。金銭の授受があるのかどうかということは、あなたが曲を作り続けるために、自分の音楽が他者にとっても有用なものだということを確かめるための大きな助けになりますが、それは動機づけ程度の意味しかないものですから。

しかし、続けるというのはそんなに簡単なことではありません。

いろいろな形で、行く手を阻まれます。あなたに近づいてきて、あなたから続ける力を奪おうとするものはたくさんあります。善意に見える無神経さや、よくできた嘘や、被害者のフリをする加害者や、有償の愛。そんなものがあなたの心の中で、密やかに奏で始められた、あなただけのメロディーを、あなた自身にも聞き取れなくするのです。
ただ、それはあなたに向けられた悪意というわけではありません。きっとまだ、私たちは大きな悪意を向けられるほどの存在でもないよね。
そういった、面倒なものは最初からたくさんあるのですよ。歳を重ねていくと、だんだん誰かに守ってもらえなくなってくるからね。あなたが繊細であればあるほど、これまでは気づかなかったノイズのようなものがたくさんある、ということに気がついてしまうということなのです。

消え入ってしまいそうな、あなたの心に生まれたメロディーを、 そんなノイズの中で聞き分けるのは大変です。
でもね、あなたにとって、あなたを形作る上で、大切な時期の時間を音楽や作曲のために使ったのですから、きっと出来ます。 ノイズと楽音を聞き分けるための基礎は身についている筈ですから。

つまらないことで傷つくな。そんなものは簡単にスルーしてしまえばいいのです。
そんなことにとらわれている暇があるのだったら、次を作りなさい。とにかく、作る。それ以外にあなたを作曲家にしてくれるものはありはしないのですから。

自戒も込めて、卒業する皆さんへ宛てて、思うことを書いてみました。
いろいろあるけど、お互いにこれからも前を向いて進んで行きましょう。

無事卒業した皆さん。本日は、おめでとうございます。

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